ロケの音声さん

ロケとは

ひとえにロケと言っても様々なスタイルがあります。例えば、最近よく見る街をぶらぶらする番組や、カフェで対談をする番組、バラエティーのスポーツ対決ドラマで見かける外のシーン等があります。これらは全てロケに当てはまります。つまり、外で撮影するものは全てロケに該当するのです。

ロケの音声さんは大体1人で対応します。規模がやや大きくなれば増えますが、不景気な昨今では増えるのはカメラばかり。スポーツのロケでは多少の人数はつけてもらえることもあります。

ロケの音声機材

様々なロケがありますが、出演者にピンマイクを付けることがベーシックにあります。

共和産業 ワイヤレスマイク RAMSA/機材レンタルより

共和産業 ワイヤレスマイク RAMSA/機材レンタルより

スタジオの定番はSONYですが、ロケではRAMSA(Panasonic製)を良く見かけます。使用する電池の種類や経年劣化による個体差でも変わりますが、送信機(出演者に付ける方)は単三電池2本で6時間以上駆動し、受信機(音声さんが持つ方)は単三電池4本でおよそ4時間持ちます。雪山など寒い環境では電池はすぐに消耗されてしまうので注意が必要です。

ロケでは一般的に免許が必要ないB帯という周波数を使用します。遊園地など大型施設でロケをする場合は申請が必要であるA帯を使用します。A帯は数年前からデジタルマイクに移行しており、通信機能が増え電池の消費が早い傾向にあります。

音声さんはこの受信機とミキサーアンプを繋いで動き回ります。ミキサーのメーカーはSHUREやFostexも出していますがこちらのsigmaシリーズを良く見かけます。ニュース取材では更に軽いシグマの3chミキサーを担いでいる所を良く見かけます。総じてポータブルミキサーと呼ぶこともあります。

ks-342

株式会社シグマシステムエンジニアリングより 4chミキサー ks-342

シグマのミキサーは単三8本駆動かリチウムバッテリー駆動させることができ、ほとんど交換する必要はありません。長いロケであればキリの良い所で一度バッテリー交換をしておけば心配ないでしょう。

これらをロケバックなどと呼ばれる鞄に入れて音声さんは駆け回ります。

とある音屋の日常 同録の機材バッグ、見てみますか?より

とある音屋の日常 同録の機材バッグ、見てみますか?より sigma3chミキサーss302

ロケバッグにはいくつかの定番メーカーがありますが、基本的にカメラ運搬用のバッグです。カメラバッグを拝借してミキサーバッグにしているのですが、主なメーカーにPortaBrace(ポータブレイス)やLowepro(ロープロ)があります。Portabraceは丈夫ですが堅くてごつごつしてます。Loweproは柔らかくて柔軟性がありますが、ダメージに弱い傾向があります。

あんなロケ こんなロケ

これらを踏まえた上で、様々な例を具体的に見てみましょう。

街ぶら

ブラタモリ

奈良町資料館より ブラタモリの収録の様子

こちらは奈良町資料館がブラタモリを取材した時の様子です。ロケは毎日の様に行われており、遭遇率は比較的高いかもしれません。ENGというメインのカメラがあり、そこに音声さんがアンプを通して整えた音をテープに収録します。ENGは音を4ch分収録(AES収録)することができますが、一般的なロケでは2chまでしか録らないことが多いです。音の分け方は主に1chにMC、2chにゲストの声を入れます。

さて、音声さん的に見た街ぶらロケの難易度は意外と高いのです。街をぶらぶらする=偶然出会った人と話すので音声さんはガンマイクをとっさに差し込んでマイクがついていない人の声を採集する必要があからです。

ガンマイク

テレビ朝日 タモリ倶楽部 ありがとう ゼンハイザーMKH416より

タモリさんつながりで、タモリ倶楽部でもガンマイクについて放送された回(2013年9月27日放送)があります。

広い場所であれば、音の収録は比較的簡単です。その場合、音声さんはどちらかというとマイクの影の当たり具合を見ています。影が当たらずに音を録ることはテレビの宿命なのです。音声さんが本当に苦労するのは、突然訪れたお店が狭かったり、天井が低かったり(マイクの棒を伸ばせない)、線路横などのうるさい場所に遭遇してしまった時です。それでもなんとかしなくてはならないのが音声さんの仕事なのです。

最近のテレビ(生放送以外)は音を聞かなくても大体内容が分かるようになりました。一度テレビの音を消してみてください、きっと話の流れが分かります。これはテロップが字幕の如く付けられているからです。生放送はその瞬間生まれているのでテロップは難しいですが、バラエティーであればほとんど音を聞かなくても内容が理解できてしまいます。実は音声さんはこれにちょこっと助けられていることがよくあります。

ロケは偶発的な内容が求められているので、なかなか台本どおりにはいきません。行く場所とざっくりと区切られている時間を見ならが音声さんは想像を膨らませます。下見をしないで本番直前に場所を見るということも多いです。

そして、演出の都合上これから「偶然会う」ことを装いたいのでマイクを隠すことが度々あります。それがお店の店員さんなどいわゆる「素人さん(タレントではない人)」であればたちまち、音声さんが嫌う中仕込みNo.1となってしまいます。これはマイクを触ってしまったり(故意でなくても)、想定外の動きをしてしまうことが多いからです。まぁ、プロでもよく触る人は居ます。

対談ロケ

アルテック音響ブログより

アルテック音響ブログより Portablaceのロケバッグにss302とks432

対談ロケは最もシンプルなロケの1つと言えるでしょう。出演者は少ない傾向があり、大体2,3人程度で収まることが多いかと思います。機材バッグを見ると、何やら黄色いテープに文字が書かれています。ここに音声さんはよく出演者の名前を書いておきます。これで誰のマイクがどこにあるのか把握するのです。出演者以外にもスタッフの笑い声を録る通称:ガヤマイクを立てることがあります。

場所はコンセプトに合わせて、落ち着いたカフェやバー、居酒屋等で撮影することが多いです。くれぐれもお店の備品を壊さない様にする必要があり、照明やカメラ三脚の汚れにも気にしなくてはなりません。写真でもある通り、カメラ三脚(Vinten製)の下にはビニールシートが敷かれていることが分かります。

スポーツロケ

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テレビ朝日 夢対決2017とんねるずのスポーツ王は俺だ!!5時間スペシャルより

決して多いわけではありませんが、ロケスタイルのスポーツ収録は非常に高度な技術が必要とされます。サッカーであれば広いピッチの音をカバーしなくてはなりません。当然予算・スタッフ人数の兼ね合いもあり、スポーツ中継の規模でマイクを立てることはありませんが、音声さんは色々な演出に対応する必要があります。

サッカーの場合は広いピッチをカバーする為に八木アンテナを設置して、長距離でもワイヤレスマイクを受信できる様にします。八木アンテナはよく家の上に設置されている物(昔は東京タワー、今はスカイツリーを向いている)をイメージしていただければ問題ありません。ロケで使う主な八木アンテナメーカーはアプローズシステムやCallwaveがあります。

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アプローズシステムより ワイアレスマイク受信用八木アンテナYG-1250 1.2GHz帯

アンテナのとげとげを”素子”と言い、対応する周波数が低ければ長くなり、高ければ高い程短くなります。他にもアンテナには色々な種類があります。ライブパフォーマンスではSHUREを筆頭としてお魚の様なアンテナ(アクティブ指向性アンテナ)も良く見かけます。様々な用途に合わせて音声さん・PAさんはセッティングをして行きます。

いろんなアンテナ

Shureマイキングセミナー Vol.4ここだけは押さえたい!ワイヤレスマイクロホンの基礎知識より

これらは同軸ケーブル(BNC)で接続することになります。細かい話にはなりますが、アナログワイヤレスマイク(B帯である800MHz帯)とデジタルワイヤレスマイク(ホワイトスペースや1.2GHz帯)でケーブルの抵抗値が違うのです。

アナログは75Ωのケーブルを使用し、デジタルは50Ωのケーブルを使用する必要があります。1本のアンテナから分配するアンテナデバイダーを使用する際にはより注意が必要となります。繋いでも受信はしますが、インピーダンス(抵抗値)の整合性は取るにこしたことはありません。これには様々な談義が行われておりますが、メーカーも明確に答えられていないこともあるようで、数値上では定義されていても現場レベルでは結構いい加減なのかもしれません。

八木アンテナ

ゴルフ中継でのアンテナのセッティング

このように音声さんには音以外にも操作しなくてはならない機材が意外と多くあるのです。

街ぶらで紹介されたガンマイクはゼンハイザーのMKH416ですが、距離の遠いスポーツ系では超指向性ガンマイクのMKH816を使用することがあります。サッカーのゴール裏に設置することもあれば、人が手に持って音が鳴る方に向けて集音することもあります。人が手に持ってマイクを動かすことを手振りと呼ぶこともありますが、ブームマイクとやっていることは変わりません。スポーツの現場では良く見るこちらのモフモフマイクですが、今回は中身を見てみましょう。

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ゼンハイザー製 MKH816+グリップ+カゴ+ジャマー

毛むくじゃらの部分を”ウィンドジャマー“と呼び、文字通り風などからマイクが吹かれてしまうことを防ぎます。吹かれるというのは風で音が「ぶふぉーーぼぉーーー」という音のことを指します。よく台風中継で聞くことができる音ですが、中継ではボールを蹴る音をピンポイントで録っているので、できるだけマイクの感度を一定に保ちたいという狙いがあります。また、防水スプレーをかけておき、雨天でもやるスポーツにも対応します。

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MKH816+グリップ+カゴ

ウィンドジャマーの中にはこのようなカゴが入っています。私が所有しているのはやや古いもので、ヤフオクで購入したものです。カゴとジャマーの間にはハイウィンドカバーというタイツの様なカバーもあります。

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System5より ハイウィンドカバー

マイクカゴの現行品はRycoteRODEがメジャーなメーカーとなっています。

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MKH816+グリップ

さて、ついにベールに包まれた本体の登場です。シャワーを浴びたわんちゃんの如く、華奢なボディーがこちらです。実はスタジオのブームマイクと同じなのです。無風の空間ではこのまま使用することもあります。悲しいことに、一生懸命とった音に迫力が無ければMAで差し替えられてしまうことも多いのです。もうやめた方がいいですね。

他にもスポーツのバラエティーとなるとスピーカーから登場音楽を流したり、罰ゲームの音を出したりとケースによりますが音声さんの負担はどんどんふくれあがります。スポーツロケはなかなか大変なお仕事と言えます。特にアイドルだらけの運動会は地獄絵図と化します。

ドラマ撮影

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押井守監督 スカイ・クロラの絵コンテより

ドラマ撮影には必ず絵コンテがあります。上の絵コンテはアニメ映画ですが、基本的にはラフイメージとなる絵があり、それにそって実写撮影します。この際はカットごとに、マイクが見きれない一番近いところにガンマイク等を設置します。しかし、カットによっては主人公が遠くにいることがあります。

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TKPガーデンシティ千葉より 日本テレビ系 金田一少年の事件簿neo

こうなるとワイヤレスマイクをこっそりと仕込んでしまいます。時々シーンによって音質が急に変わることがありますが、それはガンマイクと服の中に仕込まれたピンマイクの音の差によるものです。場合によっては声だけを別に録ることもあり、音を編集して繋げることもあります。

また、ドラマに限っては特殊なカメラ(Canon5Dなど)を使うことも多く、XLR端子が入らない場合も多くあります。変換器を繋いで音を入れることもできますが、レベルがマニュアル操作できなかったりするので、なかなか本線として扱うのは敬遠されがちです。その場合はポータブルレコーダーに音を収録することがあります。

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TASCAM DR-680MKⅡ

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Roland R-88

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Sounddevices 788T-SSD

これらはコンパクトフラッシュメモリーや、SDカード、内蔵SSDなど様々な収録形態を持っています。収録フォーマットも色々と選べますが、極力最高品質のデータで収録します。テレビ収録では 44.1KHz 16bit、映画収録では48KHz 24bitで収録することが多いです。バックアップ用にテスト・リハーサルの音も回しておくことも多く、データの容量とも相談しながら録音フォーマットを考える必要もあります。今では大容量が当たり前になってきましたが、デジタルレコーダー黎明期では8Gのカードが推奨されていた時代もあったようで、未知の領域と格闘してきた歴史があります。

今となってはMacとミキサーを繋いでしまった可動式ラックを組み立てた人もいらっしゃるようで、音声機材の多様性と進化はめまぐるしいものがあります。

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ICON MUSIKTECHNIKより

ポータブルミキサーだけじゃない

ロケの音声さんはロケバックを担いでカメラマンと運命共同体となっております。しかし、環境によってはちゃんとしたミキサーをセッティングして収録に臨むこともあります。中継番組で活躍しているTAMURAミキサーは、しっかりとしたアンプが内蔵されており放送業界では信頼されている機材となっています。

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TAMURA AMX-012 12chミキサー

しかし、近年ではYAMAHAのDM1000やCLシリーズも良く使われています。本来は楽器ミックス用ですが、小型で音のアウトも豊富であることからTAMURAの12chよりも若手に好まれる傾向があります。

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Yamaha DM1000の裏

右中央にAES/EBU、Tascam Digital Audio Interfaceとありますが、Yamahaシリーズの魅力は豊富な変換スロットがある所にあります。AES/EBUスロットがあればENGで4ch収録も容易に実現できます。他にもMADI変換やアナログ変換があり、様々なニーズに合わせて導入することができるのです。

制作が回すカメラ「デジ」

最近は技術職がカメラを回すだけでなく、制作会社のディレクターもカメラマンを担当することが増えました。ちょっと前まではDVテープで収録するSONY HVR Z5J等が主流ですたが、時代はSDカード収録となりました。これらを総合的にデジタルカメラ略して「デジ」と呼んでいます。制作スタッフが回すカメラを「制作デジ」「制デジ」などとも呼ぶことがあります。

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SONY NXCAM

機能はHVR Z5Jと同等ですが、収録がSDカードとなっています。SONY以外のメーカーもどんどん機材を打ち出しており、4Kカメラも既にたくさん出回っています。これら業務用カメラにはほぼ必ずXLR端子があり、カメラマイクがつながっています。それぞれのXLRには48Vファンタム電源もかかるようになっており、用途に応じて使いわけます。

このカメラのXLRにワイヤレス受信機を直接さして、バックアップ的に音を収録しておくことがあります。

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Compilation RIGより

こちらはショルダーアタッチメントの初回ですが、丁寧にワイヤレス受信機(一番うしろのアンテナの機体)を設置する場所を設けています。かた方をカメラマイクにし、もう片方をワイヤレス受信機に設定しておくことがよく見られます。ショルダーアタッチメントを使っている方が稀なので、受信機に紐を付けてたすきのようにかけている場合が多いです。この際はカメラマイクをマイクレベル・48V、受信機はマイクレベル・ファンタム無しに設定し、必ずピンマイクに声を入れて音の内容をイヤフォンで確認します。やらない時に限って設定ミスがあるものなのです。

人にもよりますが、デジの音の設定はAutoにしてもうまくバランスをとってくれます。もうミキサーはいらないのではないか、そう思うことは多々あります。でもセッティングする人は必要なので、なんとも準備する機材は増える一方なのであります。

まとめ

まとまらないのが音声さんのお仕事です。今回は割愛しましたが、現場ではピンマイクを付けて、BGMが掛かっているスピーカーを消したり、冷蔵庫のブーンという音と格闘しながらロケの音声さんは日々がんばっています。

時にはカメラ三脚を運び、カメラバッテリー・テープをミキサーバッグに詰め込んで動き回るのです。これに八木アンテナを担ぐこともあれば、レコーダーを入れることもあります。レコーダーの電池は意外と早くなくなるのでリチウムのバッテリーパックも抱き合わせでしょったり…

もはや15Kgを超えているのでは無いかという機材を担ぐことも稀ですが、あります。ワイヤレスマイクも混信した場合は瞬時にOKラインとダメなラインを見極めなくてはなりません。

そんな音声さんは今日も音を皆様に届けています。

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