スタジオの音声さん ミキサー編

サブの設備

サブとは放送局にある各スタジオの中枢で、カメラの映像・音声・照明・ディレクター等の各首脳陣が集まり放送をコントロールする部屋です。

img_index_06

ソニービジネスソリューション株式会社サイトより TBSテレビの事例

音声さんの場合はミキサーを操作して、最終段の音を操作しています。照明さんも照明フェーダーを操作しますが、放送が始まるまでにセットアップし、テレビ収録ではあまりがちゃがちゃと操作をすることはありません。その代わり、音楽番組・ドラマ・映画・CM等では非常に重要な役割を担います。

そんな照明さんと比較的関係が深いのはビデオエンジニア(通称:VEさん)でしょう。照明に合わせたカメラの色調整をし、収録テープ・メディアを的確に扱う必要があります。特にスポーツの生放送で中継車に乗っているVEさんは、ころころ変わる日差し具合に四苦八苦します。施設の蛍光灯にも非常に敏感です。また、バーチャルなどCG合成や、2台のカメラを1画面に入れたり、PCから映像を流したいと言われればHDMIを繋ぎ込んだり、映像の音を音声さんに送ったり…実は色々な仕事をしているセクションです。

カメラの映像はスイッチャーというボタンがたくさんある機械で、カットを切り替えます。スイッチャーとディレクターの指示は大体同じインカムに混ぜられており、高い意思疎通が必要となります。また、番組によってはタイムキーパー(通称:TKさん)という、時間管理を読み上げてくれる人の声も混ぜます。

ざっくりではありますが、サブの構成は以上の様になっています。

サブのお仕事

ミキサー卓

ミキサー

今回はミキサーのお仕事についてお話しましょう。音声さんはまずフロアで修行をし、サブに上がることが多いかと思います。

Hibinoフェーダー

ヒビノプロオーディオセールスより

サブではマイクの数だけフェーダーを操り、音声フェーダーを上げ下げして、音量を調整します。咳をしたら、誰がしたのかを探し出して音を少し絞ります。声が小さければ、ガツンと音を上げます。

音声フェーダーには数値が書かれており、一番下は∞(無限)で上は10か15と書かれていることが多いです。「0」にフェーダーを置いて丁度良いレベルに音を聞くことができることが理想的な状態です。

フェーダー0

それぞれのマイクをゼロに合わせると丁度よくする為に、まずヘッドアンプ(通称:HA)を調節します。”ヘッド”ということで、よく ”頭をとる” ”頭を合わせる” とも言います。この次にコンプレッサーを設定し、EQを設定することが多いでしょう。これについては人それぞれのやり方があるので、今回は割愛します。

パッチ盤

パッチパネル

九州電気株式会社より カナレ電気コネクター

サブではフロアから上がってきたマイク回線をミキサーに繋ぎ込む必要があります。スタジオには至る所にマイク回線があり、その都度セットに合ったマイク回線をフロアさんが選びます。壁にもありますが、スタジオの外周にある堀にも回線が散らばっています。落ちない様に気をつけつつ、照明の熱にも注意しないとケーブルが溶けたり燃えたりします。金属の取手部分にケーブルを巻きつけて、できるだけ照明に触れないようにセッティングします。

スタジオ堀

Panasonic 照明器具事例詳細より

ここにはXLRという音を扱う上で最も一般的なケーブル回線と、XLRを12個分まとめた12対(12″つい”と読みます)の回線があります。

12対マルチケーブル

秋葉原九州電気より 12対マルチケーブル

12対以外にも、8対・16対・24対・32対があります。PA・音楽業界では8の倍数が一般的で、12対の方が珍しいと考えた方がよいでしょう。

最近のミキサーは非常に便利に出来ており、フロアから言われた回線を手で繋ぐ手間がどんどん無くなってきました。あらかじめフロアにある回線がミキサー卓に接続されており、内部パッチで電気的に接続することができます。

タムラ製作所 NT880より

タムラ製作所 NT880より

他にもバンタムケーブルというアナログケーブルやデジパッチというデジタル信号(AES)を日常的に扱います。それぞれの正しい知識を身につける必要もあります。

バンタム2

バンタム盤

アサインと音声チャンネル分け

チャンネル分け

チャンネル分けの例

ミキサー卓までやってきた音は、人の手により適切な音量に調整されます。調整された音は用途に応じて振り分けられます。テレビ番組では”トーク” “オーディエンス” などの音を分けて収録します。これらは事前にプランニングして、チャンネルリストやミキサーの資料も作成した上で振り分けます。

これをミキサーで「音声をアサイン」して音をまとめたり、個別に分けたりしてテープに録音していきます。アサインして音を分けたものを「チャンネル分け」等と言い、制作にリストを渡して編集する際に役立ててもらいます。

図の様に、1段目で軸となる音をまとめて収録します。3段目からは各音を個別に収録します。このようにすることで、編集で音をパーツごとに調整することができるのです。音声さんはピンマイク・ガンマイク・VTRの音を全て聞きながらミックスします。それをAll Mixと呼びます。All Mixを聞いて、音にノイズが出たら速やかにディレクターに申告し、録り直すのか判断しなくてはなりません。

本線とは、映像をスイッチングするスイッチャーが本番想定でカメラを切り替える映像です。これを軸に制作は映像を差し替えたりします。

ISO(アイソ)とは、アイソレーションの略で、本線ではないスイッチングを、手のあいているディレクター等が押したりする予備(裏)のスイッチング収録になります。

パラとは、カメラの映像を個別に収録したものになります。カメラ台数が少ない場合は大体全パラとなります。カメラ台数が多くなると全部パラで収録するには膨大なテープが必要となります。その際は軸となるカメラだけパラで録り、ISOを増やすこともあります。

これらの映像と音は主にSONYやmaxell等が販売しているHDCAMというVTRに収録されます。

HDCAM

NAO ONLINE SHOPより SONYのHDCAM

このテープには4チャンネル分の音を収録することができ、回すテープが多ければ多い程、音を細分化して録音することができるのです。単体の声を「オンリー」と呼んだりします。重要なMCからオンリーをとり、ゲストが多すぎる場合は音を少し混ぜ合わせてゲストミックスを作ります。

ProTools(DAW)によるレコーディング

protools

Avid Pro Audio Communityより

絶対ではありませんが、スタジオの音をProToolsというコンピュータのソフトウェアで録音することもあります。この場合、VTRによる縛りがなく、全ての音をオンリーで収録することができます。これにはミキサーとはまた別の知識が必要となりますが、音楽番組では必ず使えなくてはならないソフトウェアです。

やや専門的な話になってしまうので、細かいお話はまた別の機会を設けたいと思います。

スピーカーに音を送る

オタリテック株式会社より モニタースピーカーGENELEC 1238A

オタリテック株式会社より モニタースピーカーGENELEC 1238A

ミキサーはミックスした音を巨大なモニタースピーカーで聞きながらフェーダーを操作します。スタジオのモニタースピーカーは巨大です。そして音楽観賞には向いていません。聞こえる音はフラットに作られ、粗が聞こえやすくなっています。楽曲制作スタジオでも同様にフラットに作られたモニタースピーカーでミックス作業をします。厳しい基準で作られた音は、後の消費者の多様な視聴環境でも満足して聞いてもらえるように調整されています。

ミキサーが聞いているスピーカーの主なメーカーはGENELECやFOSTEXです(他にもいっぱいあります)。一方でフロアでも音を聞くシチュエーションも少なくありません。良くスタジオの出演者がVTRを見ているシーンがあるかと思いますが、その音もサブからフロアに送られているのです。

『セブンス・リバース』ゲームメディア対抗クイズ番組の最終ステージは早押しクイズ。優勝したチームは!?

『セブンス・リバース』ゲームメディア対抗クイズ番組より BOSE101MMがチラリ

中央からやや左に小さなスピーカーが設置されています。これはBOSEの101MMというスピーカーです。イベント会場や、商業施設の天井にも設置されことが多い有名ブランドです。

BOSE101

リユースショップ モノマニアより

ラウドネスメーター

NHKを除く全ての民放は現在”テレビ放送における音声レベル運用規準“を設けています。

ラウドネス

ROCK ON PRO ラウドネスメーター:主要商品一覧より

ラウドネスは生放送や、収録を編集したもの等の音量を-24.0LKFS±1dBに収めなくてはならないというものです。詳しくは ROCK ON PRO なぜ今ラウドネスメーターなのか? を読んでいただければと思いますが、テレビの音の強弱の差をできるだけ均等にしようというものです。

mono08501876-141023-02

事業者向けサイト現場を支えるネットストア モノタロウより

ミキサーはこちらのVU(Volume Unit)メーターを見ながら、音量のバランスを取ります。大体0に行かないくらいで、-3dBを目指してミックスしますが、考え方は人それぞれです。慣れてくると、VUメーターを余り気にしなくてもバランスがとれるようになってきます。

VUメーターは入力された音が300m秒後に電圧に変換されて、針がその分振れますので、厳密にはタイムラグがあります。

アナログミキサーの場合、内蔵ジェネレーターから1KHzの正弦波(ピーという耳障りな音)を出して、レベルの基準をとります。昨今のデジタルコンソールではデジタル信号なので、基準を取る作業はありません。ズレている場合は何かしらの問題が生じています(位相ずれなど)。この正弦波を出して、VTRのラインチェックや、生放送の場合 送出最終段の放送マスターとラインチェックをします。

ラインチェックとは、音の出口が正しくアサインされているか確認するための大切な作業です。(忙しいロケ等でこれを怠るとろくなことがありません。)

ミキサーの流儀?

初めてミキサー卓に座った時は、まるで宇宙船にでも乗ったような気持ちになりました。なぜならミックスをする人は、ミキサー卓の前にあるモニターを見ながら状況を判断し、見えない所はフロアとインカムを通してやり取りをする必要があり、あらゆるものが遠隔操作となるからです。ミキサーは皆やっていることは同じなのに、そのやり方は千差万別です。

師弟関係

最近は余り聞かなくなってしまいましたが、技術を扱う仕事においては必ずや師弟関係があるはずです。先輩から技術を盗んで、自分の物に変えて行く姿勢が無くては進歩はありません。テレビの仕事には”全く同じ現場”はあり得ませんので、先輩は様々な取捨選択をしながら経験を積んでいます。生放送には生放送なりの、中継には中継なりの、スタジオにはスタジオなりの捨て方があるのです。新人は怒られながらそれらを咀嚼して育って行きます。

環境作り

最近は経費削減が顕著で、収録を含めた勤務時間は8時間を切ることも少なくありません。それでも、特番となれば勤務時間は12~15時間と長丁場となります。音楽番組であれば24時間勤務になることは珍しくありません。

そんな長い時間を耐えるために必要なのは、快適な環境作りにあります。メリハリはもちろんですが、やはり人間関係を良好にすることでいろんな局面を乗り越えられることが多いです。これはミスの予防にもなりますし、先輩の為に珈琲を取りに行ってあげるだけでも空気はいい方向に変わります。

非常に難しい立ち回りではありますが、ミキサーが複数人いる中での若手は腕が無くて当たり前で、いかに状況を良くできるかを常に考える必要があります。

チーフミキサー

チーフとは、簡単に言えばエンドロールに名前が流れている人、すなわち”責任者”を指します。しかし、現場はチーフだけがいるわけではありません。例外もありますが、一般的なスタジオ収録では少なくとも2人(フロアとサブ)の音声スタッフが必要です。規模が大きくなればスタッフは増えて行きます。ゴルフやマラソン等の大規模なスポーツ中継となると音声だけで数十人必要となります。

そしてチーフミキサーは打ち合わせやプランニングをしながら、日々本番を迎えています。準備を重ねて本番に臨む制作との一番の違いはここにあります。

毎日が本番なのでかなり精神的なプレッシャーがあるはずです。そして、フロアを担当してくれる人とうまくコミュニケーションを取りながら毎日を乗り越えています。

チーフは突然に

経費削減により、現場あたりの技術スタッフは減らされている傾向にあります。会社にもよりますが、ちゃんとした継承がないまま突然チーフとなることがあります。可能な範囲で先輩がサポートしてくれることもありますが、事実上の独り立ちとなります。フロアとミキサーは同じ音声ですが、やっていることは全くと言っていい程違うので、音声のスタッフ削減は技術の引き継ぎの意味ではかなりの痛手となっています。そのため、フロアはいつまで経ってもフロアだけ…ミキサーいつまでも増えない…という悪循環が生じていることも事実なのです。

独占禁止法とミキサー

放送機器の王様と言えばSONYでしょう。他にもPanasonicIkegamiなどと言ったメーカーも放送界では不動の地位を持っています。音声でも定番機材が多くありますが、放送用・業務用ミキサーの最初の壁は多すぎる機種にあると言えます。

AMS Neve(ドイツ製)

タムラ製作所(日本製)

CALREC(イギリス製)

LAWO(ドイツ製)

STUDER(スイス製)

これらのメーカーは放送に特化した業務用ミキサーメーカーです。あまり音楽には向いていない傾向があり(内蔵リバーブすら無いことも多い)、PA業者はあまり使わない印象を持ちます。上記以外ではSolid State Logic、Avid製のVenueS6L、ヤマハのDMシリーズCLシリーズLSシリーズQLシリーズなどは放送でもPAでも通じる主なメーカーでしょう。

これらは全て使い方が異なります。

なぜこんなにも機種が多いのか?それは独占禁止法による所もありますが、様々なメーカーを入れることで故障した時のリスクを分散しているのです。世界各国のメーカーの一流の機材を使っており、パーツ交換やメンテナンスをするだけでもとても時間が掛かります(何ヶ月も掛かることも)。その為、音声ミキサーを担当する人は、いろんなメーカーを使える様にならなくてはなりません。初めのうちはちょっとしたトラブルでもパニックになってしまうでしょう。

時代の変化

昔の先輩は怖い人ばかりだったと聞きました。今の技術の現場で理不尽に怒る人はまず居ないと言っていいでしょう(制作はまた別のお話)。バブル時代のテレビ業界はなんでもありな状態で、ちょっとしたミスなんて誰も気にしなかったのではないでしょうか?それは当時の若手にとってはある意味とても良い環境でもあったと思います。現に今のベテラン(主に40代周辺)は本当に腕が良い人が多く、何でもやってのけてしまい、尊敬できる人ばかりです。

今は小さなミスでさえ、報告書を書かなくてはならないことが増えてきたように思えます。若手でもミキサーになったからには当然ミスは許されませんが、やってから分かることが非常に多いのです。この点で言えば、ネットの生放送系は過渡期で、いろんなことにチャレンジできる環境があると言えるかもしれません。

また、昨今の音声はクオリティよりも安価でそこそこの質を実現できる機材が増えてきました。消費者には大歓迎ですが、業務で扱う人にとっては多様化が進みすぎている感は否めません。これは放送に限らず、生活のあらゆる場面で感じることでもあります。ちょっと便利になりすぎたのかもしれません。

放送に限らず、技術革新は次のステップに進もうとしています。カメラでもマイクでもパソコンでも、業務用の機種がどんどん一般化されていることはとても良いことではあります。ただ、便利すぎて一人あたりの仕事量は増えてしまっています。

私が考える次のステップは、自動処理の加速です。業務用とはすなわち、細かい設定がマニュアル(人の手)で出来るところにあります。これをもっと自動化することで、人の負担を無くしていく必要があります。労働人口は年々減っているにも関わらず、会社は人を雇いません。人の力でなんとも出来ないのなら、技術革新で乗り切るしか未来はありません。ただ、その裏でもやはり”人”はいますし、”人間関係”も必要なのです。なんともやるせない話です。

この記事が気に入ったら
いいね ! しよう


PAGE TOP