Inter BEE 2016のマイクメーカー8選
目次
InterBEEの音響展示ブース
会場pdfを見ればわかるが、会場は大きく3つに分かれている。それぞれの会場に入るには外の連絡通路を通る。喫煙する人はここで休憩することができる。
映像機器は2会場分あるので、音響の会場に行くには一番奥まで進まなくてはならない。
看板の指示通り進むといよいよ音響機器の展示会場だ。ここは放送機器全般の展示場なので、最新のマイクメーカーの展示が主ではないことを予め断っておくので、ご了承いただきたい。
各メーカーブースのマイク
既に速報情報としてイケベ楽器のレポートを確認することができる。
AMBEO VR MIC ゼンハイザー社

楽器のイケベの『InterBEE2016・音響機器レポート!』~その3 マイク編 より引用
やはり目玉となったのは360度の映像を楽しめるVR技術に対応したこちらの【AMBEO VR MIC】という代物である。まだ日本では展示段階なので価格などは未発表だがAV Watchの記事によると15万〜20万円を想定しているようだ。実は海外では既に販売されており、価格は$ 1,649.95である。円に換算するとおよそ18万3千円である。今回はこれらのサイトに取り上げられていいない一風変わったマイクを紹介してみたいと思う。
パーツはこのようになっており、4つのパターンで録られた音がXLR端子で出力される。今後はこれを基準とした安価なマイクが一気に増えて行く可能性があると私は睨んでいる。しかし、問題はVRのコンテンツをどう浸透させるかという壁もあるので慎重に見守りたい。これは5年前にROLAND社が発表した一般人でも手の届く金額のUSB映像アナログスイッチャーVR-3が登場した時と同じものを感じる。最新機材でさえも一般消費者の手に浸透するスピードが年々早くなっている。VRコンテンツを一般人が作ることができる様になることが1つのゴールであるべきだと私は考える。
-Soyuz- ソユーズシリーズ ソユーズマイクロフォン社
こちらのSU-019は¥253,800となっている。NEUMANN、SCHOEPS、DPAなどの名門と並ぶロシア製の高級マイクである。ソユーズはロシア連邦が月旅行計画の為に開発した、最大3人乗りができる有人宇宙船である。ソユーズとはロシア語で団結・同盟と言う意味を持つ。月旅行計画は実現はしなかったが、今でも国際宇宙ステーションへアクセスや緊急脱出用に現役で使われている。宇宙船ソユーズには何種類かあるが、この様な丸みを帯びたシルエットが特徴である。Blueマイクロフォンとも形状は似ている。
さて、このソユーズシリーズであるが2013年にアメリカ出身のDavid Arthur Brownとロシア出身のPavel Bazdyrevによって設立された。マイク自体は2014年より発売されている。日本ではミックスウェーブ(株)によって最近ようやく取り扱うようになった。現在発表されている全3種類が展示されていた。(FETタイプのSU-019、チューブコンデンサータイプのSU-017、チューブコンデンサーのスティック型のSU-011)
こちらのSU-017は宮地楽器で脅威の¥415,800(税込)とのことである。下のSU-011は¥163,080である。SU-011は先端のカプセルを取り替えて指向性を単一指向性・無指向性などに変えることもできる。
チューブとFETはどちらもコンデンサーマイクで48Vのファンタム電源を必要とする。それらの違いとは;
・チューブは真空管を使ったコンデンサーマイクで、音が太く柔らかい印象を持つ。音は良いが、設置・設定・管理がシビアで真空管のメンテナンス(交換も含め)も必要となる。
・FETは電界効果トランジスタの略で、集積回路を真空管の代わりに使っているもの。音質も良く、真空管より安価で販売される。しかし、こだわる人は真空管を好む傾向がある。
上記はやや乱暴な説明ではあるが、ざっくりと、そういうものである。完璧な機材設備を持って初めて見出される違いでもあるので、どちらが良い・悪いとも言い切れない。ダイナミックマイク1本でも十分カッコイイ音は作れることを常に念頭に置いておく必要がある。今回は残念ながらこのマイクの音を聞くことができなかったが、波形表を見る限り5Kと10Kが少し持ち上げられており、音像の芯も取りつつ、ハイ伸びしそうだ。
使用アーティストにRadioHeadが挙げられている。
LCTシリーズ LEWITT社
オーストリアに開発拠点を置いているこちらのメーカーは独特の録音技法・処理技法を持っている。LEWITTの設立者はローマン・パーション氏であり、革新性を追求しながら使い勝手の良いマイクを作ることをモットーとしている。
こちらもソユーズ同様にFETタイプとチューブタイプが発表されている。こちらのマイクも2014年には発表されている。
やはりチューブタイプの方が高価で販売されている。肝心の独自性であるが、専用のプラグインをDAW内に入れることで一度録音した音の指向性をカーディオイド・スーパーカーディオイド・ハイパーカーディオイド・オムニ・双指向性に再現することができるのである。このカラクリはマイクで録音する際に、PC内で全パターンで録音されており、後で切り替えることができるという仕組みである。これで録音時間や音選びの時間を大幅に短縮することができ、まさに使い勝手が良すぎるマイクである。これは実際にデモを聞くことができたが、見事に切り替わったのである。この発想は無かったという一品である。
SHURE
言わずと知れたアメリカのマイクメーカーのSHUREシュアーのブースには歴代の定番マイクが展示されていた。下の写真中央のSM58はメキシコ製やビンテージとしてマニアで取引されている昔のMade in USAに加え、模造品の粗悪なもの(オークションで極端に安価なものはこの可能性が高い)まで出回る程有名なメーカーである。
右手のマイクは通称ガイコツマイクとも呼ばれ、CMやテレビ放送でも度々見られるが大体ダミー(パフォーマンス用)としてもよく利用されている。
KSMシリーズはスタジオレコーディングでもライブパフォーマンスでも耐えられる設計を目指したものである。そして今回取り上げられていたのはこちら。
こちらはオープンプライスだが、ヨドバシカメラの価格では¥17,060となっている。この記念モデルには記念証書、写真、クラシックユーザーガイドとバンパーステッカーが同梱されるとのこと。説明文にはやや装飾が感じられるが、マイク自体は従来のSM58と同じと考えておいた方が良いかもしれない。値段も手頃(といっても通常のSM58の倍くらい)で、記念には良いかもしれない。
他にもSHUREはガンマイク(VPシリーズ)や放送用のインタビューマイク(SM63等)も作っていることでも知られている。
SANKEN 三研マイクロホン
放送業界では比較的有名な日本のマイクメーカーで、極めて高い技術力に加え求心的な開発意欲がある個人的にも非常に好感が持てるメーカーである。ガンマイクをはじめ、ステレオマイク(1本のマイクでL/Rチャンネル録ることができる)や100KHzまで収音可能な広帯域マイクロホンも開発している。
こちらは100KHzまで収音可能なマイクCO-100Kである。放送機材のインターネット販売大手のSYSTEM5では\244,600で販売されている。音楽スタジオでも好んで使用するエンジニアもおり、クラシック界では定番のDPA4011の代わりにCO-100Kを試用した際には絶賛された経緯を聞くことができた。ハイレゾも浸透してきてはいるが、波形モニター上の検出と実際の人間の耳の可聴範囲(一般的に20Hz〜20KHzで、20歳を過ぎると広域から聞こえなくなってくる。モスキートーンはたむろする若者を撃退するための狙い撃ち政策である。)を大幅に上回っている為、通常の環境で体感するのは難しいかもしれない。ただ、その開発精神と技術力は素晴らしい。
こちらはXY方式のステレオマイクCSS-50である。今までのスタンダードであったCSS-5は5つのカプセルを使用しており、高ゲイン・低ノイズを実現したマイクを販売してきた。今回はカプセルを減らすことで大幅に価格を下げることに成功した。CSS-5は22万~25万円に対して、CSS-50は14万~15万円程に抑えられている。いずれもMONO・NORMAL・WIDEの切り替えができる。MONOに設定した場合は超指向性のガンマイクとして利用できる。
CU-41に継ぐ、CU-55も展示されていた。こちらは楽器にもナレーションにも使用できる汎用性の高いマイクとなっており、価格もおよそ11万円と従来の高級マイクの技術を継承しながら低価格を実現している。難点としては指向性の切り替えはなく、単一指向性のみの仕様となっている。
これはガンマイクのCS-1をフロントとし、前後にステレオマイクCUW-180を組み合わせた技術の結晶と言えるマイクである。仕組みは以下の通りである。
GS-180WSというアクセサリーはおよそ10万円するが、これを購入すればカゴ・ジャマー・調節されたショートケーブルがついてくる。
マイクと縁の無い人にとっては全く理解不能な世界かもしれないが、日本の技術はやはりすごいと思わせてくれるメーカーだ。
AudioTechnicaオーディオテクニカ
家電量販店ではオーディオテクニカはイヤホンメーカーという認識が強いかもしれない。実はここも世界に誇る日本のマイクメーカーである。
BP40はダイナミックマイクで、重厚なヴォーカル収音に向いている。ハイパーカーディオイドであるため、回り込みには強く、ドラムのキックやタムにも使えそうだ。
AT5045は楽器収音に特化したサイドアドレスマイクで、マイクセッティングでも目立ちにくいというメリットがある。よくギターで使ったレビューを見ることがある。
こちらのAT5040はハニカム構造のダイアフラムを4つ連結している。大きな音圧にも耐え、トランペットを目の前にしても素晴らしい収音が可能である。マイクグリップにはクセがあり、ちゃんとロックをしないとマイクの重みで落ちてしまうので取扱には注意が必要である。
BLUE Microphone
1995年に創業したBLUEは南カリフォルニアに本社を置く。このメーカーは見た目の通り、かわいい感じのマイクを多数制作している。特徴的な形状から見て、モデルは恐らくNeumannのCMV-563で、マイクの頭の部分は互換性があるらしい。
ここではBottleシリーズが展示されていた。2.5Kと10Kが持ち上げられており、EQせずともハイブースト狙いのヴォーカルが録音できる。これらの先端の丸い団子上のダイアフラムはBottle Caps Kitという取替セットがあり、様々な特性に変えることができる。値幅はあるがマイク本体は3万円前後から購入することができ、見栄えもかわいいことから個人ミュージシャンの写真に時折見かけることがある。
AEAリボンマイクロフォンテクノロジー
最近リボンマイクが再評価されてきている。リボンマイクはもともと軍事技術から放送技術に取り入れられらマイク技法である。アルミを振動させ、それを増幅させるがゲインが著しく低いのが特徴である。しかし音の温かみは群を抜いており、古い放送は全てがリボンマイクであった。RCAやウェンスタン、Royer、Coles等が主なメーカーだが、昔の日本はRCAの技術をコピーしGベロやAベロといったヴェロシティーマイクを作ることになる。そのヴェロシティーマイクの形はRCAのマイクに驚く程そっくりで、中国の模倣品と言われても仕方の無いものであった。私もAiwaのVM-100(RCA77DX風だが、ゲインが低く、ハイがキンキンする)を所有している。
さて、AEAとはRCAにインスパイアされたリボンマイクである。
A840はRCAの伝説的なマイク77DXの様にも見える。ドナルド・フェイゲンのNightFlyのジャケットでも登場するRCA77DXは当時のジャズやポップスのレコーディング界の定番マイクであった。リボンマイクは構造上双指向性となる。その指向性を表す∞もリボンの様に見えるが、実は稼働金属リボンと永久磁石の振動を拾うからリボンマイクと呼ばれる。原始的な技法で収音レベルは小さい。
かつてはビッグバンドと歌手の間にリボンマイクを立て、マイク1本で録音することもあった。現在では考えられないようなことだが、それでも数多くの名盤があることは事実である。現在でもジャズのウッドベースなど楽器録音でも仕様されることがある。
残念ながら展示されていなかったが、RCA44BXをオマージュしたR44シリーズは最高峰の値段で取引されている。
近年では先端技術を導入しておりパッシブリボンマイクやファンタム駆動のアクティブリボンマイクが誕生している。それによりかつてのゲインの低さは克服している。他にもリボンマイク専用のマイクプリAEA TRPも販売している。6〜7万円で販売されており、リボンマイクに焦点を当てている為、ファンタムは内臓されていない。
番外編
サザン音響の展示ブースにはDPAのダミーヘッド型バイノーラルマイクのType2700Proの展示もあった。
バイノーラルマイクとは耳の位置にマイクを仕込み、人間の聞こえる様な音を出来る限りリアルに集音するマイクである。
気になるキャノンXLRは下から出ている。
数千円で購入できる安価なイヤホン型バイノーラルマイクもあるが、やはりヘッドダミー型の方が忠実に再現されるという。
まとめ
実際にマイクを見たり触ったりできる環境はなかなか無く、貴重な現場であった。しかし個人的に引っかかるのは、どのマイクもだいたい二年前から発表されているマイクばかりであることだ。eBAYなどの機材面でも充実したインターネット輸入業者が普及した今、時代遅れの展覧会にどう付加価値をつけるか真剣に考える必要があるだろう。アナログだが、サンレコをコンスタントに読んでいた方がよっぽど早い情報が手に入る。業界誌にはPROSOUND(隔月刊)もあるが、これもだれでも入手可能だ。
InterBEEは今後BtoC(企業対消費者)の場を広げていくべきである。機材は年々安価(内容にもよるが、価格に対して”できること”は確実に増えている)になり、Youtuberをはじめとした新しい消費者・個人事業主が増えている。この展覧会を放送業界だけにとどめてしまうことはとてももったいなく、危険な行為である。全ては一般化されるべきであるというのは私のモットーであるが、ピュアオーディオ主義者はプロよりも良い機材を持っていることがしばしばある。良い機材は最終的に消費者にも渡るべきなのだ。これがまたニッチな発展のきっかけを作って行くものだと私は信じている。情報化社会は今、やったもん勝ちである。とことん尖った機材は必ずやファンを生む。
これからの発展のためには一般消費者も見据えた業務展開をしていただければ幸いである。