よりみち散歩 #14 隠れた名曲喫茶 バロック

名曲喫茶の定義

名曲喫茶の定義とは
・普通の喫茶とは異なり、クラシック音楽を中心に音響装置(レコードや大きいスピーカー等)で聞かせてくれるお店
・音楽鑑賞を目的としている為、私語厳禁の傾向がある
・楽曲のリクエストができる
クラシックのレコードが高価だった1950年代~1960年代頃にかけて名曲喫茶が登場しだしたが、私が調べた中では渋谷の「名曲喫茶ライオン」は1926年から営業を始めている。高円寺の「名曲喫茶ルネッサンス」というお店は2007年に出店しているので、一概に古いお店ばかりとは言い切れないが、多くのお店は1950年代にお店を構えていることが分かる。

名曲喫茶ライオン 渋谷 1926年創業

名曲・珈琲 新宿 らんぶる 新宿  1950創業

名曲喫茶ネルケン 高円寺 1955創業

名曲喫茶でんえん 国分寺 1957創業

名曲喫茶ミニヨン 荻窪 1961創業

クラシック喫茶バロック 吉祥寺 1974創業

名曲喫茶 ヴィオロン 阿佐ヶ谷 1980創業

名曲喫茶ルネッサンス 高円寺 2007創業

それぞれのお店にはそれぞれのルールがあり、自慢の機材でお客さんを楽しませてくれる。今回は吉祥寺にあるクラシック喫茶バロックについてお話をしていこう。

クラシック喫茶バロックの場所

そろそろバレてしまったかもしれないが、毎度おなじみの場所である。 ジャズ喫茶メグのすぐ横にお店を構えている。写真でさくっとお店の場所を紹介しよう。

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手前一番下にバロック、奥の中央にメグの看板がある

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お店は二階にあり、階段の足元には看板がある

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階段の途中にも看板が出ている

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お店はメグのすぐ隣にある

さぁ、心の準備は良いだろうか?

お店について

その1:私語厳禁

sanpo#14-9入り口右側には「音楽鑑賞店の為 お話はできません」と書いてある。ちなみに禁煙である。じゃあ注文は筆談なのか?と思うかもしれないが、最低限のやり取りは普通に会話OKだ。着席してから私的な話しはNGという認識で良いだろう。定休日は火・水曜日である。

その2:メニュー

sanpo#14-6テーブルにメニューは無いので、入ってすぐ左手に曲がったところに掛かっているメニューからスマートに注文するのが通のたしなみだ。ブレンドコーヒーは800円だが、以後おかわりは200円で好きなだけ音楽鑑賞することができる。コーヒーは注文してから淹れてくれるのですぐには出てこない。時間に余裕を持って来ることが攻略の鍵となる。

その3:席はマスターに委ねる

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当然気に入った席があれば勝手に座って構わないが、マスターが空いている席の中から一番音が良い場所に案内してくれる。この日は幸運にもベストスポットに座ることができた。

以上のルールはあくまでもお店にスムーズに適応するための予備知識程度で構わない。私も初めて入店したときは全てマスターとやり取りをした。今のマスターは、亡くなってしまった店主(故・中村数一さん)から奥様が引き継いでいる。かつてのマスターには多くの逸話があり、音楽に対する熱意や破天荒なエピソード(リクエスト曲の指揮者をすり替えて客を試す、本を読むなら帰れ等)が多数あったそうだ。奥様はとても物腰が柔らかく、初めて来店するお客さんに対してもとても親切だ。

また、リクエストカードは伝票の下部にリクエスト欄が用意されている。適切なタイミングでマスターに渡せば流してくれるので興味があればチャレンジしてみるのも良い。お客さんがいなければ、マスターからリクエストを聞かれることもあるそうだ。

レコードとスピーカーについて

レコードについて

私は残念ながらCD世代なので、ここの情報はほとんど受け売りとなってしまう。レコードにはSP、LP、EPの三種類があり、それぞれの大きさや再生時間、回転数が変わってくる。SPはStandardPlayの略で、12インチあり毎分78回転させて再生する片面4、5分程の収録メディアである。LPはLongPlayの略で文字通り再生時間が伸びた。これは24分程度の収録時間(再生時間)を持つ。これも同じ12インチだが、回転数を毎分33 と1/3回に下げることで再生尺が伸びている。EPはExtendedPlayの略で7インチのレコードだ。これは4分半の再生時間を持つ。現代ポップス音楽の多くが約4分半で終わるのはこのEPの名残である。レコードはダイヤモンドやサファイヤの針でレコードを擦り、その音を増幅させて聞いている。その為、レコード・針ともに摩耗が生じ、寿命がある。

さて、長くなってしまったがクラシックは長い再生時間のLPが主流だ。このお店にはおよそ3000枚のレコードがある。sanpo#14-8

このお店ではキッチンからしか進めないレコードルームがあり、そこでレコードを変えている。曲目はホワイトボードで書いてくれる。このさらに奥に行くとアンプが積まれており、そちらでも時々操作をする。

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レコードの隙間から真空管アンプが少し見えている

スピーカーについて

スピーカーは両翼にVITAVOXのBitone Major(1970年製)があり、内側にはTannoyのMonitor Gold(1967年製?)と思われるスピーカーが配置されている。どちらも年代物のスピーカーである。

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両端にあるのは空調では無くスピーカー

肝心な音だが、私は簡単に評価を下すことはできない。なぜなら私の頭はデジタル音源に染まってしまっているからである。ギリギリテープ世代の私が、レコードは素晴らしいと言っても、それこそ説得力は無い。

ー 今まで何回か聞いたがそれらの音はレコードの当時の録音状態、レコード円盤自体のコンディションによって大きく左右されるのだろう。ブラームス ヴァイオリン協奏曲 ニ長調(誰の演奏だったかはメモできなかった..)を聞いた時は、低音があまり感じられず、盛り上がり所は若干飽和状態。しかしこれはこれで味だし、何と言っても経験したことが無い「音」だったことは新鮮だった。

ー ベートーベンチェロ・ソナタ一番のピアノの音の高解像度には驚いてしまった。吐息もはっきり伝わってくる。初めてレコードには色んな音があることを発見したのだ。私の「音」の好みが小編成ということも少しはあるかもしれない。

 私の父親は大のクラシック好きでスピーカーもTANNOYのTurnberry/SEをクラシック仕様にチューニングしたものを購入している。アンプも30年前に父親が購入してからメンテナンスを繰り返し延命しているMcIntosh MC7270を使用している。この恵まれた環境は少なからず私の耳を育んできた。だがこれを聞いた瞬間、CDなんか聞いている場合ではない。そう思ってしまった。なんというか、製法や製造者が変わるとそれが直接五感に伝わってくる感じはオールドウィスキーに近い。ウィスキーには「天使の分けまえ」という自然に蒸発してしまう現象がある。これは古ければ古いほど、目減りが多く、これが独特の枯れた味わいと円熟感を出してくれる(アルコールも多少飛ぶ)。近年のウィスキーは基本的に人の手から機械製造に変わってしまったが、昔のウィスキーは人の手で麦を蒸らし、そのムラが良い個性となって親しまれていた。レコードも録音技術の試行錯誤(リボンマイクやコンデンサーの吊りマイクなど様々なマイクを使った録音技法が編み出されてきた)や、プレス職人のムラがCDには無い芸術を持たせている。全て手作業だったのだ。

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A Brief History of Recordingより引用 クリックでサイトへいけます(英文)

その時の味や音なんてものはとても曖昧なもので、人間の芸術性はその曖昧性だと私は思っている。形が無いから芸術だとは良く言ったものだ。

偉そうに講釈を垂れてしまったが、私の音楽経歴は3歳からクラシック教育から始まり、中高は吹奏楽部。それが祟り音大に進学しジャズにどっぷり浸かる。後に録音エンジニア職に就いているかたわらで作曲をしたり、電子工作をしたり、吉祥寺記事を書いているアラサーおじさんである。ちなみに趣味はケーブル作りだ。

細部まで洗練されている

ここのコーヒーはカップをお湯で一度温めてから淹れたてのコーヒーを注いでくれる。その方が風味が飛ばなく、美味しくいただくことができる。sanpo#14-2

そして器がとても美しく、さぞや良いセラミックなのだろうと思い調べてみた。こちらは由緒正しいイギリス王室御用達のWedgwoodである。

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開店当時から大切に使っているのだろうか、現行品は出回っていないようだ。店内には石像の天使(ミューズ?)や石柱、絵画が飾られている。居心地はいいのだが、不思議と背筋は伸びてしまう。

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ここではノーブルな時間を過ごすことができる。少し異空間かもしれないクラシック喫茶バロック、是非淹れたてのコーヒーとクラシック演奏を堪能頂きたい。そのうち針がプツ..プツ..という音が恋しくなるだろう。

また、本当の演奏を武蔵野市で聞きたい場合は武蔵野文化事業団のサイトで色々な演奏情報を確認することもできるので、そちらも合わせてチェックするのも良いだろう。

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